罪の声|塩田 武士【あらすじ・感想・ネタバレ】

2016年08月03日に講談社より出版された、塩田 武士さんの『 罪の声』を読了しましたのでレビューです。
ネタバレを含んでおりますので、結末は知りたくないという方はご注意ください。一応ネタバレ部分はボタンで閉じてあります。



公式情報

小説『罪の声』の作品情報

「これは、自分の声だ」京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼いころの自分の声が。それはかつて、日本を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め--。
圧倒的リアリティで衝撃の「真実」を捉えた傑作。

講談社BOOK倶楽部より

塩田 武士さんはこの作品で、 数々の賞を受賞。

  • 第7回山田風太郎賞受賞
  • 2016年版「週刊文春ミステリーベスト10」第1位
  • 2017年版「このミステリーがすごい!」第7位
  • 第38回吉川英治文学新人賞候補に選出

映画『罪の声』の作品情報

©2020「罪の声」製作委員会

原作:塩田武士『罪の声』(講談社)
脚本:野木亜紀子
監督:土井裕泰
出演:小栗旬 星野源
制作:TBSスパークル、フイルムフェイス
配給:東宝
©2020「罪の声」製作委員会
撮影スケジュール:2019年3月末~6月(予定)
公開:2020年 全国東宝系公開

  東宝WEB SITEより

あらすじ

京都でテーラー(スーツの仕立て屋)を父の跡を継いで営んでいる曽根俊也(配役:星野源)。
愛する妻と娘、母親と平凡ながらも実直に暮らしていましたが、母親が体調を崩し入院することに。入院先の母親から、お見舞いの際にアルバムと写真を持ってきてほしいと頼まれます。そこで自宅を探していたところ、父・光雄の遺品の引き出しの中から黒革のノートと古いカセットテープを見つけ、妙に思った俊也はカセットテープを聞いてみることに。

そこには、聞き覚えのある幼い頃の自分の声が録音されていました。ただ記憶を探っても録音した覚えがないことを不思議に思います。

つぎに、黒革のノートを開いてみると英文で書かれたメモ書きのような文章が。所々に日本語が混じっており、「ギンガ」「萬堂」という単語から日本では有名な菓子メーカーの企業名だということを理解するし、同時にこの菓子メーカー2社を同時に見ることで俊也の頭にある事件の名前が思い浮かんできます。

昭和最大の未解決事件とも名高い「ギン萬事件」です。
※あくまでフィクション作品としているため作中では、「ギン萬事件」となっていますが、80年代に実際に起こった 「グリコ森永事件」をモチーフにしています。「ギンガ=グリコ」「萬堂=森永」です。
「ギン萬事件」とは、菓子メーカー・ギンガの社長の身代金誘拐事件をかわきりに、複数の菓子・食品メーカーを恐喝し、毒入り菓子をばら撒いた事件で、2000年には時効を迎えたことで昭和最大の未解決事件と言われている事件。

俊也は古いテープに入っていた記憶にない自分の声、ノートに書かれていたことが気になり、インターネットで事件の脅迫に使われた音声を検索してそれを聞きます。それは紛れもなく、父・光雄の遺品のカセットテープから流れてきた音声と同じものでした。「なぜ自分の声が脅迫に使われてたのか?」「父親と事件の関係は?」悩みながらも自分の父親は大犯罪に関わっているのではという思いから相談することも出来ず、一人で悩んでいました。

悩みに悩んだ末、俊也は父親の幼馴染で、自分のお店の常連として親しくしている、堀田信二を頼ることを決断し、家族には打ち明けられなかったことを堀田に話します。

堀田は当然驚いた様子でしたが、どんな結果でも受け入れるという俊也の想いを尊重し、謎の解明に協力することを約束しました。堀田は謎の解明の糸口に心当たりがありました。俊也の父・光雄の兄で俊也の叔父にあたる、曽根達雄という人物です。堀田は、光雄と幼馴染で、幼い頃に達雄とも面識がありました。そこで達雄と親しかった人物に会って話を聞くことで糸口を見つけていきます。


場面が変わります。


時を同じくして、時効を迎えて数年以上たっているにも関わらず「ギン萬事件」を追っている記者がいました。
大日新聞文化部所属の阿久津栄士(配役:小栗旬)です。
阿久津は、上司のなかば強引な命令で大日新聞の年末目玉企画である「昭和・平成未解決事件」の特集で「ギン萬事件」を担当することになっていました。文化部所属である阿久津の本来の業務は芸能関係者への取材であり、社会部が取り仕切る年末企画であること、世界の中でも優秀だといわれる日本の警察が解決することのできなかった、「昭和最大の未解決事件の犯人を見つけ出せ」と暗に示されることに嫌気が差していました。
30年も前の事件であり、情報もほとんど得られない中得た有益であると思われる情報を元に、時間と経費を使ってロンドンでの聞き込みを行うも、阿久津自身が無理だと思い込んでいることもあり、まったくの手ぶらでの帰国となりました。
しかし、阿久津は慣れない取材に悪戦苦闘しながらも、その中で徐々に事件の真実に近づいいくこと、大日新聞に憧れる学生から刺激を受けることで自分の中に眠っていたジャーナリズムに目覚めていき、徐々に事件の真実に近づいていきます。

未解決事件の30年越しでの真相究明に向けて2方向から物語は進んでいきます。

俊哉と堀田は、達雄の友人筋の線から得た「犯人グループが会合に使った」と思われる、小料理屋「し乃」を訪れ、意を決して自分の素性を明かしますが事件についての情報は、おそらく犯人グループとなんらかかの繋がりがある女将からは聞き出すことは出来ませんでした。しかし、当時から「し乃」で修行をしており会合当日にもお店に居合わせた板長から貴重な情報を得ます。
それは、堀田、達夫と同じ柔道教室に通っていた生島秀樹と思われる人物が「犯人グループ」の中にいたということです。
生島は元滋賀県警の警察官で、暴力団担当でしたが暴力団っとの癒着が問題となって警察を首になり、その少し後に、一家全員の行方がわからなくなっていたのです。
生島には、中学三年生になる娘の望と小学二年生の息子・総一郎がいました。
「ギン萬事件」では、複数の「幼い児童の男女の声」が脅迫に使われており、俊哉は自分と同じ境遇であるその人物達のことを心から気にかけていました。板長より話を聞き、生島の子供たちがその人物ではないかと心に思います。

その少し後、阿久津も小料理屋「し乃」まで行きついていました。当時の事件を追っていた先輩記者である水島より得た情報で、犯人グループは株で儲けたお金を資金源としていたという情報をもとに、調査を行っている時と同じくして、警察の捜査班もアマチュア無線が趣味の男が録音していたグループの会話より、金田哲司が浮上し、金田の女であった小料理屋「し乃」の女将にたどり着きます。

ここから物語が急展開します。

あらすじ(ネタバレ)

ここから先はネタバレ・結末の記載がございます。ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。読みたい方はこちら ⇒ あらすじ(ネタバレ)を読む

俊哉と堀田は、小料理屋「し乃」の板長から得た情報を元に生島秀樹とその一家に何があったのかを追っていくうちに、娘の望の親友で失踪後も連絡を受けていたという、幸子に出会うことができました。
幸子の話でいろいろな事実が判明します。
・「ギン萬事件」の脅迫に使われていた声は生島の娘と息子である望と総一郎の声であるということ。
・生島秀樹は「犯人グループ」との仲間割れですでに殺されてしまっているということ。
・生島の妻の千代子と望と総一郎は、生きるすべがなく、夫、父親を殺害した暴力団の監視のもと生活をしていたこと。
・目をかいくぐり幸子に連絡をしていた望も暴力団に捕まり殺害されてしまったこと。
望が殺害されたあとも、千代子は生きるすべを暴力団から与えられることにより懐柔され生活していましたが、それはひどいものでした。総一郎もまた、そんな状況に目をつむりただただ生きていくしかありませんでした。
生活の本拠地である会社の火事のゴタゴタの間に総一郎は暴力団の手から逃げ出すことに成功します。しかし、総一郎は母親である千代子を地獄に残して自分だけが逃げ出したことを心の底から後悔したまま、自分自身もいつか捕まって殺されてしまうのではと怯えて暮らしていました。
この事実を知った俊也は、何も知らずに平凡ながらも幸せに生きてきた自分の境遇と、同じ加害者の子供である、望と総一郎との境遇の差にここまで踏み込んでしまったことへの後悔、これ以上知ってしまう恐怖から堀田に、終わりにすることを告げました。
そのころ、阿久津は手に入れた犯人グループの写真を切り札に、再度小料理屋「し乃」に赴きます。板長より、犯人グループの主犯格だと睨んでいた曽根達雄の甥っ子が訪ねてきたことを知り、どうにかこうにか居場所を聞き出すことに成功します。

ここから、事件を追う二人が邂逅します。

阿久津は京都にある老舗のテーラーに向い、俊也に事件のことを仄めかしますが、これ以上踏み込まない、もう終わりにすると決めている俊也は阿久津に帰るように促します。
阿久津もその空気を察しますが、一言「私はロンドンにいる曽根達雄さん、あなたの伯父に会いに行ってきます」という言葉を残すことにより俊也の心を揺さぶります。
その後、阿久津は実際にロンドンへ再び赴き、最初に訪れた時とはまったく違う心境に。ジャーナリズム、真実を知るということに真摯に向かい合う自分に戸惑っているようでもあります。
最初にロンドンを赴いた際に得た知己を頼り、人の心に向かい合うことで、なんとか曽根達雄に会うことが出来ました。事件の動機を聞く阿久津に達雄が答えました。

きっかけは、確かに父である清太郎の死だった。父を殺した犯人である過激派への恨み、父を見放したギンガへの怒りが動機であった。しかし 正義のための報復である暴力行使で一般人を死に追いやる事件を起こしたことで、その行動は父を殺した過激派と変わりないものになってしまった。すべてに疲れ達雄はロンドンへ逃げ込んだ。そこでも、国の情勢に憤ったとしても革命はおこらないことを知った。
失望の最中、達雄の元に、警察をクビになり、暴力団から金を借り、生活に困っていた生島が訪れてきた。
自分を馬鹿にした、警察と世間に一泡ふかせて金儲けをしたい。生嶋はその計画に達雄を必要とし勧誘目的でロンドンまで来た。

すべての物事を客観視し、無気力になっている自分とはまったく正反対な欲深さを持った生島の勢いに魅せられた達夫はなんの主張も持たないまま事件を起こしたのです。

達夫のこの応えに対して、ジャーナリストとして、人として憤りしか感じない阿久津。なんの欲望もなく、意味のないことだとわかった上で、幼い子供を巻き込み、世間を震撼させる事件を起こした。
阿久津は完全にジャーナリストとしての意気込みを取り戻しており、犯人である達雄を答えましたが、真実を捉えたとは微塵も思えませんでした。

ロンドンから帰国した阿久津は、再び俊也の元を訪れここで、本当の邂逅を迎えます。

阿久津は真実の到達点について考え、記事の到達点を犯人を特定することに意味を見出しませんでした。
加害者の家族であり、犯人達の理不尽で犯罪に加担させられた子供達の現在を守りたい。そう考えました。

阿久津と俊也は、協力し生島総一郎の居場所を苦労しながら探し出し、なんとか会うことができました。事件から30年という時を経て総一郎は、生きることに疲れきっていました。
そして、あの火事の日、母を置いて逃げてしまったという心からの後悔を口にし「母に会って謝りたい」と泣き崩れます。

場面は変わり、曽根一家へ。
俊也は意を決し、また何かを悟り、家族に手帳とテープのことを打ち明けました。俊也は母である真由美は、そのことを知っているかのように感じました。
母・真由美は父・光雄と結婚する前、過激派の運動に加担しており達雄との面識もありました。結婚後にその事実を知った後もお互い踏み込まず適度な距離をとってきました。しかし、達雄から「ギン萬事件」への協力を頼まれた真由美は、過激派の運動に参加していた時の想いがよみがえり事件へ協力を決めます。
俊也の声を録音したのは母である真由美だったのです。
自分の母親から事件に関わっていたことを聞き、俊也は空しくなりました。同じ人の親となった俊也には自分の主義主張のために、愛する子供を危険に晒すということが理解できなかったのです。

もうひとりの被害者である総一郎は阿久津と俊也のおかげで、母・千代子と対面を果たすことができました。
心からの後悔を謝り続ける総一郎に普段は感情を表に出せない状態であった母は優しく接します。
そして、総一郎は古いカセットテープを出し再生をします。流れてきたのは、姉の望の声と総一郎の声でした。
亡くしてしまった娘の望の声に嗚咽を抑えきれない千代子。

母と娘の最後の形見が歴史に名を刻んだ犯罪の証拠だという事実。
またその裏にあった悲しい加害者家族の物語。
どこにもぶつけることの出来ない悲しみを感じながら物語は終幕を迎えます。

感想と書評

久々に一気読みした作品でした。読めば読むほど、先が気になり止まらない💦

次々と出てくる新事実、急展開にのめり込んでいきました。
私が一番注目したのは、言葉ではなく挙動でその人の今感じているだろうことを伝える文章の秀逸さです。

言葉で伝えられるよりも、会話の前後でそういう表現を入れることによって作者に伝えられているのに、自分がそう感じたと錯覚するのです。
また登場人物も魅力に溢れており、ただただ良い人、ただただ悪い人でないところに人間臭さを感じ感情移入が出来ました。

作中では「ギン萬事件」と呼称していますが、題材は昭和最大の未解決事件とも言われている「グリコ・森永事件」。それほど詳しく事件の概要を知っているわけではなかったのですがもちろん名前は知っていますした。未解決事件にも関わらず、実際本当にこうだったのではないのかと思わせるリアリティを感じました。

それ前述した登場人物の感情描写がとても緻密で、この人物ならそうするだろうなという納得感が非常に高かいこと。もう一つは、作者である塩田武士さんが相当時間をかけて事件について調べたんであろうことが感じるからでしょうか。

題材そのものは、「グリコ・森永事件」なのですが、犯人の特定を主題とせず、メインの筋は事件関係者の心理描写で人間の心理・信念に重きを置いているというところもはまった原因かもしれません。

俊也の母である真由美の行動には賛同できませんでしたが、それが逆に俊也への感情移入に繋がり、没頭したのかもしれないとも思っています。

私自身、犯罪の加害者の家族に対して何か主義主張を持っているわけでないのですが、この作品を読むといたたまれない気持ちになりました。

この作品は2020年に映画化が決定しており、いまからワクワクしています。 監督は土井裕泰さんでわたしの中では リアルさの中にユーモアを入れる天才というかシリアスな場面でも思わずクスっとさせる演出をぶっこんでくる人だというイメージです。『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』『凪のお暇』はファンになるくらい面白かったです。監督された映画は未視聴なのですが、この方が関わっているドラマでは、キャラが立っており人に拘っていることがすごくわかります。
出演はダブル主演で、曽根俊也役に星野源さん、阿久津栄士役に小栗旬さんです。星野源さんとは『逃げは恥』でタッグ組んでますね。
どこでぶっこんでくるかを楽しみにしております。

ゆっきー
ゆっきー

最後までお読み頂きありがとうございました。
ゆっきー( @yukkiblog )でした。